グレゴリオ聖歌の音楽語法には、旋法以外にもいくつかの特徴的な点がある。旋律の動きは主に順次進行を取る。3度の跳躍はよくあり、それ以上の跳躍も、アンブロジオ聖歌やベネヴェント聖歌などよりはるかに多い。音の移動はオクターブではなく、7音目までしか到達しないことが多い。すなわち、例えばニ音からオクターブ上のニ音まで行くことは稀で、ニ-ヘ-ト-イ-ハのような形で、ニ音から7音上のハ音まで移動することがしばしば行われる[36]。また、例えばヘ-イ-ハのような、決まったピッチの連なりを用い、その周りに他の高さの音が引き寄せられるような旋律も多い[37]。各旋法には、よく使われるインキピットと終止(カデンツ)があるが、これは旋法理論だけでは説明できないものである。聖歌はしばしば、サブ・フレーズを組み合わせたり繰り返す複雑な内部構造を持つ。これは特に奉献唱や、キリエやアニュス・デイなど短いテキストを繰り返す聖歌、大応唱やグロリア、クレドなど、テキストの中に明確に分かれる部分を持つ聖歌に多い[38]。
一部の聖歌は、旋律的に族関係にある。昇階曲(グラドゥアーレ)や 詠唱(トラクトゥス)を作る時には、一種の音楽的「文法」に従ったセントニゼイションによって音楽のフレーズが構築される。ある種のフレーズは聖歌の冒頭のみ、あるいは末尾のみに用いられ、ある種のフレーズは決まった組み合わせでのみ用いられ、このようにして例えば、昇階曲のグループである Iustus ut palma のように、音楽的に近親関係にある聖歌群が成立している[39]。第3旋法の入祭唱の一部は類似した旋律をもち、上にあげた Loquetur Dominus もその一つである。第3旋法では、ハ音がドミナントとなるため、通常ならばハ音が朗誦音となるところ、これらの第3旋法の入祭唱では、ト音とハ音の両方を朗誦音とし、しばしば、この調性感を確立するために、ト音からハ音へ装飾を凝らした跳躍から聖歌がはじまる[40]。同様の例は、他にも散見される。
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グレゴリオ聖歌の最初期の記譜史料は、「ネウマ」と呼ばれる記号を用いている。初期のネウマは、各音節(シラブル)の音高(ピッチ)の変化や長さを示すものの、各音の絶対的な音高や、各ネウマ間の相対的な音高の関係は示されていない(無音高ネウマ、アダイアステマ記譜法)。研究者の仮説では、この記譜法は手の動きによって音高を指示するカイロノミーや、ビザンティン聖歌の動機譜(エクフォネシス譜)、句読点、アクセント記号から発展したものとされる[41]。後に、ネウマ間の相対的な音高の関係を示す音高ネウマ(ダイアステマ記譜法)が発明される。一貫した方法で相対的音高を示す方法ははじめ、11世紀前半に、フランスのアキテーヌ地方、中でもリモージュのサン・マルシャル修道院で開発された。それに対して、ドイツ語圏の多くでは、12世紀に至るまで無音高ネウマが使われ続けた。この他に、特定の音高(通常はハ音かヘ音)に一本の線を引く、線譜も発明された。また、段の最後において次の段の最初の音高を示す、カストス(custos)の記号や、テヌートを示す "t" など、アーティキュレーション、音の長さ、テンポなどを示す追加的記号も開発された。この他に、シェイカー教徒の音楽に用いられるような、異なる音高にそれぞれ文字を割り当てて記譜する記譜法も用いられていた。